家庭の医学
> 「身体活動量とがん罹患、死亡リスクとの関連」厚生労働省研究班の最新データから
厚生労働省研究班は、平成20年(2008)7月、全国の男女約8万人(45〜74歳)を対象に行った約8年間にわたる追跡調査「身体活動量とがん罹患との関連について」の結果を公表しました。これは、日常生活での身体活動量の差が、がん罹患に与える影響を調べたもので、男女それぞれに身体活動量の多いグループから少ないグループまでの4群に分けて、がん罹患リスクを分析しました。その結果、最も身体活動量が多いグループは最も少ないグループに比べて、がんに罹るリスクが男性は13%、女性は16%も低減していました。また、同研究班が6月にまとめた「身体活動量と死亡リスクの関連について」の調査では、身体活動量が多いほど、がんをはじめ日本人の三大死因にあげられる心疾患、脳血管疾患の死亡リスクが低下する数値がはじきだされました。まめに身体を動かす人ほど、がんに罹るリスクや死亡リスクが低減する」──。今、注目されている'身体活動量とがん'についての最新データを紹介しましょう。
3月まで施行されていた標榜診療科は、診療科名を一つ一つ決めていた「限定列挙方式」で、医科34、歯科4の38「身体活動量とがん罹患との関連について」の調査は、平成7年(1995)と平成10年(1998)、 身体活動量のアンケートに回答した7万9771人(男性3万7898人、女性4万1873人)を、平成16年(2004)まで追跡したデータをまとめたものです。
【身体活動量のアンケート】
1日の仕事や余暇の運動を含めた活動時間を下記の4つに分けて回答
(1)肉体労働や激しいスポーツをしている時間
(2)座っている時間
(3)歩いたり立ったりしている時間
(4)睡眠時間
アンケートで回答した活動時間を、身体活動や運動の強度が安静時の何倍に相当するかを示すMET(Metabolic equivalent)値に活動時間をかけた「METs・時間」スコアに換算しました。
【メッツ(MET)の例】
メッツは、活動の強度によって指数が定められています。
・座って安静にしている状態…1メッツ
・普通歩行…3メッツ
・自転車…4メッツ
・激しいスポーツ、過重労働…8メッツ
調査では、この「METs・時間」スコアから対象者一人一人の1日の活動量を求め、男女それぞれ、4グループに分類しました。各グループの活動量は「メッツ中央値」を目安とし、活動量が最も少ない最小群「L」は、男性がメッツ中央値25.45、女性は26.10でした。続いて少ない第2群「S」はメッツ中央値31.85(男女共)、第3群「T」はメッツ中央値34.25(男女共)、最も活動量が多い「H」はメッツ中央値42.65(男女共)でした。同調査では、身体活動量が低いグループは、もともと体調が悪く運動ができなかった人が含まれていたことを考慮して、その影響を避けるため、研究開始から3年以内にがんになった人を除いて分析しました。
約8年の調査期間中になんらかのがんに罹かった人は合計4334人で、そのうち男性は2704人、女性は1630人でした。罹患した人を活動量別(図1参照)にみると、男性は活動量が最小のグループ「L」の罹患率を1とすると、最も活動量の多いグループ「H」は0.87倍、2番目に活動量の多いグループ「T」は0.96とリスクが低くなりました。女性の場合も、活動量が最も少ないグループ「L」の罹監率を1とすると次に少ないグループ「S」は0.93、最も活動量の多いグループ「H」と次に多いグループ「T」はともに0.84で、やはりリスクが低くなりました。
(厚生労働省研究班「身体活動量とがん罹患との関連について」より)
さらに部位別のがんで罹患リスクを調べてみると、男性は、胃がん(罹患621人)、肺がん(罹患388人)、前立腺がん(罹患279人)については、身体活動量による罹患リスクの低減はみられませんでしたが、結腸がん(罹患328人)、肝がん(罹患189人)、膵がん(罹患87人)は、活動量が多いグループの方が低リスクでした。結腸がんでは、活動量が少ないグループ「L」に比べて、最も多いグループ「H」は0.58倍、膵がんは0.55倍、肝がんは0.62倍と著しく罹患リスクの低い数値でした。女性の場合は、胃がん(罹患232人)で0.63倍、肝がん(罹患74人)で0.54倍、結腸がん(罹患228人)で0.82倍と、活動量が少ないグループ「L」に比べて、最大グループ「H」のリスクが低い結果がでました。一方、肺がんは0.92倍、乳がんは0.91倍で、膵がんについては1.29倍でした。
こうした結果を踏まえ、同研究班は「男性と女性、仕事をしている人としていない人、家事のある人とない人とで日ごろの身体活動の種類は異なることが多いのですが、自身の生活の中で可能な方法により、よく動く時間を増やしていくことががん予防につながると考えられます」としています。
同研究班は、平成20年(2008)6月に身体活動量と日本人の三大死因である「がん」「心疾患」「脳血管疾患」との死亡リスクについてまとめた調査結果を公表していますが、この調査でも、身体活動量が多い人ほど死亡リスクが低減する数値がはじきだされています。
この「身体活動量と死亡リスクの関連について」の調査も、平成7年(1995)と平成10年(1998)、アンケートに回答した45〜74歳までの8万3034人(男性3万9183人、女性4万3851人)を、平成17年(2005)までの約9年間にわたり追跡したもの(図2参照)です。身体活動量については、「身体活動量とがん罹患との関連について」と同様に、対象者一人一人の1日の平均活動時間をメッツに換算して、4グループ群に分けました。
(厚生労働省研究班「身体活動量と死亡との関連について」より)
調査対象者の8万3034人中、調査期間中に亡くなったのは4564人(男性3098人、女性1466人)です。身体活動量の最小群「L」と最大群「H」を比較すると、最大群の死亡リスクは、男性で0.73倍、女性で0.61倍と明らかに低下していました(図2参照)。
死因別にみると、がんの場合、男性では身体活動量が最小のグループ「L」に比べて最大群のグループ「H」は、0.80倍、女性は0.69倍と低減しています。また心疾患でも男性では、最大群「H」は最小群「L」の0.72倍、女性は0.69倍と顕著な低下が見られました。脳血管疾患については、男性は、必ずしも活動量が死亡リスクに大きく影響するという結果は得られませんでしたが、女性は、0.64倍と活動量の効果が期待される数値でした。
同研究班は、対象者の年齢から死亡した人は平均寿命前の早死にと推定し、早死にの予防の観点から、男女とも、仕事、余暇に限らず、全体的に身体活動量が多いことで死亡リスクが低下する傾向にあるとしています。
身体活動量の増加により早死にが予防できる理由は完全に解明されているわけではないとしながらも、「がんと循環器疾患では、インスリン抵抗性、脂質、血圧、血液線溶系、恒常性機能の改善や老化、炎症に関連する酸化ストレスの軽減などがメカニズムとして推測される」としている。また、メカニズムはいまだわかってはいないとしながらも、「身体活動が、健康な生活を営んでいく上で心理的によい影響を及ぼしているとも考えられる」と結んでいます。
これらのデータから、がん罹患と死亡リスクの低減に効果が期待される身体活動量について、関心が高まっています。
国立がんセンターのがん予防・検診研究センターは、「がん予防の指針」で、身体活動については「定期的な運動の継続。例えば、ほぼ毎日合計60分程度の歩行などの適度な運動、週に1回程度の汗をかくような激しい運動を」と提言しています。また、「成人期での体重を維持(太り過ぎない、痩せ過ぎない)。具体的にはBMIで27を超えない、20を下まわらない」とし、そのためにも運動が必要としています。
※BMI=体重(キログラム)÷{身長(メートル)の2乗}
厚生労働省では、生活習慣病対策として、2006年に「健康づくりのための運動指針2006」を打ち出しました。生活習慣病を予防するための身体活動量や運動量、体力の基準値を示したもので、METsを基準とした身体活動量の計算方式(METs×身体活動の実施時間=エクササイズ(Ex))で、「週23エクササイズの活発な身体活動!そのうち4エクササイズは活発な運動を!」を推奨しています。具体的には「1日1万歩(1週間7万歩)、運動で週合計60分」としています。
【参考:身体活動量、がん予防】
国立がんセンターがん予防・検診研究センター
http://www.ncc.go.jp/jp/kenshin
健康・体力づくり事業財団「健康づくりのための運動指針2006」
http://www.health-net.or.jp/zaidan/index.html
厚生労働省「e-ヘルスネット(情報提供)」
http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/
(2008.8.7)
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