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再生医療技術の最前線〜iPS細胞〜
人間のからだのあらゆる組織や臓器になるとされ、再生医療への応用が期待される「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」。
人の皮膚などから採取した体細胞に遺伝子操作を加えることで、心臓や神経などのどんな細胞にも成長できる能力を持つ万能細胞といわれています。
医療現場での実用化に向けて世界中で研究が進められている「iPS細胞」の可能性についてご紹介します。
“iPS細胞”とは
2006年、京都大学の山中伸弥教授らの研究チームが世界で初めてマウスの皮膚細胞から作製することに成功した人工多能性幹細胞。自分の体細胞から臓器などを作ることができれば拒絶反応を回避でき、また受精卵(胚)を用いて作られるES細胞のような倫理上の制約もないため、さまざまな疾患の発症メカニズムの解明や、難病の治療薬の開発などに有用と考えられています。厚生労働省や文部科学省などは、iPS細胞の研究を国家戦略と位置付け、支援態勢の整備を進めています。
また、国際間の開発競争も激しく、2010年1月にはアメリカのベンチャー企業がiPS細胞に関する特許をイギリスで取得。今後莫大な利益が見込まれるため、世界中の企業や投資家が巨額の資金を投入してファンド事業に参入するなど、商業面での注目も高まっています。
再生医療の現状とこれから
病気やケガなどの様々な理由で損傷を受けた生体機能を、万能細胞を用いて復元・再生させる「再生医療」。臓器移植にみられるドナー不足や拒絶反応といった問題を克服でき、これまでは治療困難とされてきた難病や重病疾患・障害にも対応可能な画期的で革新的な医療技術です。
その反面、iPS細胞を用いた治療法は生体内で目的以外の組織になる可能性や細胞のがん化などの可能性を否定できず、大量生産も難しいなど、臨床応用においてはまだまだ超えるべき課題が多いのが現状です。
再生医療技術の人への応用(1)〜角膜の再生〜
角膜は、眼の最表面にあり、上皮・実質・内皮の3層からなる厚さ約0.5mmの組織です。ここに何らかの障害が生じると角膜混濁による視力低下が発症し、これまでは角膜移植が唯一の治療法でした。しかし、角膜疾患による視力障害で通院する人は年間約2万人いるのに対し、角膜移植を受けられる人の割合はその1割程度。ここにもドナー不足や拒絶反応等の大きな問題点があります。角膜再生医療は、治療を受けたくても受けられなかったこれらの人に新たな可能性を提供できる技術であると同時に、効果的な治療法がなかった難治性疾患にも応用できると考えられています。
再生医療技術の人への応用(2)〜血管の再生〜
脚の血管が詰まり歩行が困難になる、閉そく性動脈硬化症やバージャー病という病気があります。このような症例に対し、たんぱく質「bFGF」を特殊なゼラチンに含ませて注射し、患部に徐々に放出させることで血管の形成を促します。低コストで安全性の高い治療法として期待されています。
再生医療技術の人への応用(3)〜心筋梗塞〜
マウスのiPS細胞を使って心筋梗塞の病状を改善するなど、心筋細胞についても研究の成果が出ています。日本の研究チームは、心臓の筋肉になる細胞を特殊なマークを付けてより分けていた従来の手法とは異なり、心臓の筋肉だけを残す独自の培養法を開発。心筋のシートを作って心筋梗塞のマウスの心臓に張り付けた結果、シートを移植した8匹のうち半数で血液を送り出すポンプ機能が改善。ただ、残り半数は移植した細胞が腫瘍化しました。培養した細胞の99パーセントが心筋に分化したものの、残り1パーセントの未分化細胞が腫瘍になったとみられています。今後の研究で精度を上げることができれば、人の心臓病治療に応用できる可能性もあります。
再生医療技術の人への応用(4)〜がん免疫治療〜
理化学研究所の研究チームは、がん細胞を攻撃するリンパ球「ナチュラルキラーT(NKT)細胞」からiPS細胞を作り、このリンパ球を大量に増やすことにマウス実験で成功。がんを発症させたマウスに「ナチュラルキラーT(NKT)細胞」を戻すと、がんの転移や再発を抑える効果があることを確認しました。
iPS細胞を作製するときにレトロウイルスを使った場合は発がんの可能性があるため、人への応用には発がんの恐れのないiPS細胞作製法の確立が求められています。
最新の研究成果
ラットのiPS細胞を使い、マウス体内にすい臓
東京大学医科学研究所の中内啓光教授らの研究グループは、ラットのiPS細胞からすい臓をつくりだすことに成功し、米科学誌「Cell」に研究結果が発表されました。
この研究では、すい臓を作れないように遺伝子を改変した雌のマウスの受精卵に正常なラットのiPS細胞を注入し、別のマウスの子宮に移植。その結果、生まれてきたマウスはラットのiPS細胞から成長したすい臓をもち、正常に機能して成体に育つことが確認されました。
また、作られたすい臓がiPS細胞に由来するものかを確かめるために目印として組み込んでいたたんぱく質が、細胞に含まれていることも確認。iPS細胞由来のすい臓から単離したすい島を糖尿病マウスに移植して、血糖を正常化させることにも成功し、すい島移植のドナーとして利用できることも示されました。
マウスとラットのように異種のほ乳類のiPS細胞から臓器を作ったのは世界初で、糖尿病などのさまざまな疾患の治療に応用できる可能性が期待されています。

がん化の可能性の少ないiPS細胞作製法の確立
京都大学の研究チームは、iPS細胞の臨床応用において懸念されているがん化の可能性を抑え、作製効率も高めることができる方法を発見しました。
まず、4つの遺伝子(c-Myc、Oct3/4、Sox2、Klf4)をマウスやヒトの線維芽細胞に導入。4つの遺伝子のうち、c-Mycと呼ばれる遺伝子はiPS細胞を効率よく作製する働きをもつ反面、作製されたiPS細胞の多くががん化してしまう原因になることが分かっています。そこで、c-Mycと遺伝子配列が似ている遺伝子群(Mycファミリー遺伝子)の働きを詳細に解析した結果、L-Mycと呼ばれる遺伝子がc-Mycより効率よくiPS細胞をつくり出すことが分かりました。さらに、マウスを用いた実験で、L-Mycを用いて作られたiPS細胞には腫瘍形成がほとんど起こらないことも確認されました。

iPS細胞の大量培養
川崎重工業と産業技術総合研究所などは、iPS細胞を自動で培養できる装置を世界で初めて開発。これまで研究者の手作業に委ねられていた培養を大量かつ安定的に行えるようになりました。
また、京都大学の山中伸弥教授らのグループは、特定の遺伝子の働きを止める方法でiPS細胞作製の効率の低さを改善。数%だった作製効率が約20%に向上し、人の皮膚細胞を使っても千個の細胞から数個だった作製効率を数十倍高める効果がありました。
これらの研究成果は安全で効率のよい作製法の確立につながり、再生医療への実用化を加速すると期待されています。
厚生労働省の取り組み
難病バンクの設立
難病患者の細胞やDNAなどの生体試料を保管する「難病バンク」。筋萎縮性側索硬化症(ALS)など130の難病患者から同意を得て生体試料を集め、提供者を匿名にしたうえで研究者や製薬企業への試料提供を行うことで、難病の原因解明や治療法の開発に役立つと期待されています。正式名称は「難病研究資源バンク」で、バンクが置かれる医薬基盤研究所(大阪府茨木市)と、熊本大、理化学研究所が中心となって事業を行います。熊本大では難病患者の細胞からiPS細胞を作り、理化学研究所などを通して研究者への提供が実施されます。

「他家移植」臨床研究の認可
2010年6月30日、厚生労働省の専門委員会は「命にかかわるか、生活に著しい支障の生じる病気で、有効な治療法がない場合」という条件を付けたうえで、iPS細胞を他人に移植(他家移植)して行う臨床研究を認めるとする指針をまとめました。その上で個別の研究計画については、安全上問題が生じるおそれがないか、それぞれの研究機関と厚生労働省で二重に審査し、成果は公開するよう義務づけました。
指針の策定により、iPS細胞の他家移植は数年以内に行われる見通しとなり、今後はがん化する恐れのある細胞の安全性をどう高めていくかが課題となります。
【参考】
厚生労働省
文部科学省 iPS細胞等研究ネットワーク
理化学研究所
産業技術総合研究所
科学技術政策
科学技術振興機構
京都大学iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)
東京大学医科学研究所
(2010.10.1)
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