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新型インフルエンザ(A型H1N1)最新レポート〜厚生労働省が発表した新指針から〜
日本国内での新型インフルエンザ(A型H1N1)の感染者数は、6月25日に千人を超えました。WHO(世界保健機関)の統計では、感染者が千人を超えた国は、日本が世界で8カ国目になります。そのWHOは、6月11日に、マーガレット・チャン事務局長が、新型インフルエンザの危険度レベルをフェーズ5から最も危険度が高いフェーズ6へと引き上げました。世界的大流行期(パンデミック)のフェーズ6は、多数の国々で人から人への感染が起こり、もはや、感染の拡大は避けられないという状況です。こうした中、厚生労働省は19日、秋以降に予想される第二波の流行を睨み、医療体制や検疫体制を見直して新たな運用指針を発表しました。豚インフルエンザが変異した新型インフルエンザについては、不明点も多くありますが、これまでの症例から、少しずつ明らかになってきた特徴もあります。明らかになりつつある新型インフルエンザの症状と、厚生労働省による新たな運用指針を紹介しましょう。
新型インフルエンザとは?
今年4月にメキシコとアメリカで感染者が確認されると、瞬く間にカナダ、南米、欧州などに広がり、日本では5月9日にカナダから帰国した高校生らに初めて感染が確認されました。フェーズ6を宣言したWHOのマーガレット・チャン事務長は、症状については「中程度」とし、回復は早く、目下のところ、重症化するケースや死亡数が急激に増加することはないものの、今後の推移を注意深く見守る必要があることを示唆しました。4月の発生以来、各国の疫学者、臨床家、ウイルス学者などの専門家が、新型インフルエンザを調査分析し、情報をWHOに提供しています。調査方法などは、各国共通ではないので、平均値などの数値は明確にはなりませんが、国を超えて共通する特徴が浮き彫りになっています。5月5日にWHOの技術的専門家会議に提供されデータなどから、いくつかの新型インフルエンザの特徴が解明できます。
インフルエンザA(H1N1)症例報告の国別特徴1)
(国立感染症研究所感染情報センターホームページより)
変数
アメリカ メキシコ スペイン カナダ イギリス
潜伏期 範囲:2〜7日2) NA3) 中央値:3日
範囲:1〜5日
NA3) 範囲:4〜6日
年齢 中央値:20歳
範囲:3ヶ月〜81歳
殆どの奨励が5〜44歳 平均:24歳
中央値:23歳
範囲:19〜55歳
中央値:22歳
範囲:2〜64歳
中央値:25歳
死亡数 確定症例642例中2例2)
(0.3%)
軽い症例11,932例及び確定症例94例中42例4) 0 0 0
顕著な臨床症例 ほとんどにILI5)、323例のうち82例(25%)に下痢2)、295例のうち74例(25%)に嘔吐2) ILI、重症例のなかには二次性細菌性肺炎も 全症例軽症のILI 殆どの症例にILI、下痢の症状もあり、発熱のない咳の症例もあり ILI、28例のうち3例(11%)に下痢または胃腸症状
重症化しやすくなる要因の存在(6) 入院22例中12例2)(55%)にあり 若干例が妊婦 重症例なし 重症例なし 重症例なし
疾患による入院 確定症例399例中36例(9%)2) 約2,000例(多くは確定されていない) なし 確定症例140例中1例(0.7%) なし
コミュニティーレベルでの広がり あり あり なし なし なし
男女比(男:女) 51:492) およそ男女同数 47:53 およそ男女同数 女性症例が50%wを若干超えている

1. データは特に断りがない限り2009年5月5日にWHOの技術的専門家会議で提供された;データは暫定的データである
2. http://content.nejm.org/cgi/content/full/NeJMoa0903810?query=TOC
3. NA=利用可能なデータなし
4. http://WWW.cdc.gov/mmwr/PDF/wk/mm5817.pdf
5. ILI=インフルエンザ様症状(Influenza-like illness)
6. 妊娠、慢性疾患、超低年齢または高齢といった、季節性インフルエンザのリスクを高めるリスクに関連する要因

国別に症例報告のポイントをまとめると──(5月5日時点・国立感染症研究所感染情報センターホームページより)。
○カナダ
アメリカ東部夏時間5月5日15時現在で、検査確定症例は合計140人(発症日は約76人の情報が利用可能で、最も早い発症者は4月13日、直近の発症者は4月30日)。
症例の年齢は、大多数が50歳以下で中央値は22歳(範囲・2歳〜64歳)。65歳以上の症例はゼロでした。患者の男女比はほぼ同数。症状発症7日以内の渡航が判明している50人中45人がメキシコに、1人がアメリカ合衆国に、4人は渡航先の国が特定されませんでした。注目すべき点は、ノバスコシアの学校における集団感染と関連する初期の症例の間では、症状の中に発熱があった人が半分以下で、病状は咳や熱とともに筋肉痛及び鼻漏のような軽症のインフルエンザ疾患(ILI)症状があったことが特徴でした。また、表にはしていませんが、数人が下痢を報告しています。
○メキシコ
5月5日現在、合計949人の検査確定症例と42人の死亡が確認されています。さらに、疑い症例が11,932例報告されています。
症例の年齢のほとんどは、5歳と44歳の間で、60歳を超える症例も報告されています。患者の男女比はほぼ均等。初期の症例で、15歳から29歳、および30歳から44歳のグループに重症呼吸器症及び肺炎患者が認められ、通常とは異なるパターンを示しました。
約2000人が入院し、入院の平均期間は5日から7日で、入院症例の約17%が人工呼吸器を必要としました。2次的細菌肺炎は入院患者数人で発生しました。
平均的な、有症状期間は13日で、症例が確定された者のうち、情報取得が可能であった症例においては、発熱、呼吸困難、咳、頭痛、鼻漏が多くみられた症状で、解熱に最大9日間要した患者も数人いました。
○スペイン
スペインはアメリカ合衆国でインフルエンザA(H1N1)の最初の症例が報告された直後から強化サーベイランス(監視)を開始しています。サーベイランスは、発熱および急性呼吸器症状のあるメキシコからの帰国者の検出に的を絞り、臨床的判定基準は、37.5℃の熱および曝露後10日間以内の発症を含めています。
5月5日現在、検査確定症例は57人(最も早い発症日は4月19日で、直近の発症日は4月30日)。
症例の47%が男性で、年齢の平均および中央値はそれぞれ24.2歳と23歳(範囲・19歳〜55歳)でした。 症例57人のうち、52人は感染確認地域への渡航歴があり、5人は確定症例との濃厚接触者でした。2次感染患者5名の潜伏期間は1〜5日で中央値は3日です。全症例ともに、軽症のインフルエンザ疾患(ILI)症状があり、3日から5日以内に回復しています。95%以上に熱および咳があり、約50%に頭痛、鼻漏、咽頭痛、倦怠感及び下痢症状がありました。全ての症例をオセルタミビア(タミフル)で治療。症例との接触者は追跡調査で見つけ出し、オセルタミビア(タミフル)の予防投与を行いました。
○イギリス
アメリカ合衆国とメキシコでのインフルエンザA(H1N1)発生報告後、速やかにサーベイランスを実施。5月5日現在、検査確定症例は合計58人(最も早い発症日は4月16日で、直近の発症日は4月30日)。患者の年齢の中央値は25歳で、40歳を超えた症例は稀(メキシコへ渡航した症例の中で、2人が40歳代で、3人が50歳)です。男女比では、女性が半数を少し上回っています。症例の多くが学齢期の集団発生です。症例28人のうち、18人は感染地域に渡航し、10人は症例の接触者です。接触者10人のうち7人は学校と関連し、そのうち2人は感染地域に渡航した確定症例の家族で、残り5人は学校の他の生徒でした。渡航者およびその濃厚接触者の調査の初期データによると、潜伏期は4日から6日と思われます。確定症例の全員に熱と軽症の症状があり、28人中3人だけが下痢または胃腸症状がありました。2人は入院しましたが、疾患が重症なためではなく、感染を拡大しないための処置でした。
○アメリカ合衆国
5月5日現在、検査確定症例は642人。そのうち疾患の発症日が判明しているのは394人で、範囲は3月28日から5月1日。そのほか、700人を超える疑いが濃厚な症例として報告されています。確定症例の男女比はほぼ同数で、年齢の中央値は20歳(範囲・3か月〜81歳)。アメリカ合衆国での初発例は発生地域への旅行と学校での集団感染に関連しており、それが引き続いて家族や学校での接触者への伝播につながったとみられます。最近の報告数の増加は、発生地域への旅行に関連はしていません。
入院についての情報が入手できた確定症例は399人で、そのうち36人(9%)が入院しました。さらに、詳細情報が得られた入院患者22人のうち、12人は慢性疾患、妊娠または5歳未満児といった季節性インフルエンザの合併症リスクを高くする要因があり、入院の主な理由は重症呼吸器疾患のためで、基礎疾患が原因ではありませんでした。暫定的データからは、潜伏期間は2〜7日で、2次感染の発病率は約22%と推定されています。が、さらに高い発病率が、いくつかの学校に関連した集団感染で観察されています。
新型インフルエンザとは?
これまでの症例から、新型インフルエンザの基本的な症状は、突然の高熱、咳、咽頭痛、倦怠感や鼻汁がでる、頭痛など季節性インフルエンザとの類似点が多く、季節性インフルエンザに比べて、下痢や嘔吐を訴える感染者が多くいます。潜伏期間は感染後1日から1週間ほどで、WHOが示す「中程度」症状は、具体的には、感染者の症状は穏やかで、入院せずとも回復し、回復も早い「弱毒性」です。投薬では、タミフルとリレンザが有効です。とはいえ、カナダの報告に見られるように、感染初期の症例では発熱しないケースもあり、こうした感染者が感染を拡大する可能性も危惧されます。
また、各国ともに高齢者が罹りにくく、若年層が罹りやすい傾向で、10代、20代に集団感染が見られます。WHOの新型インフルエンザの委員会のメンバーで、国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長の田代眞人氏は「通常のインフルエンザは高齢者が重症化しやすく肺炎も多いが、新型では60歳代以上で重症化した人がほとんどいません。感染国の高齢者がなんらかの免疫を持っている可能性もあるかもしれませんが、現時点では理由は説明できない」と述べています。また、アメリカの米国疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention = CDC)では、感染者の64%以上が5歳から24歳で、65歳以上が1%という調査や、入院患者164人の年齢を調べると約70%が49歳以下だったというデータから、「高齢者は過去に感染したことがある、あるいは、ワクチン接種により免疫がある可能性がある」と推論しています。
WHOでは、二次感染率は22〜33%と推定し、これは季節性インフルエンザが5〜15%ということから比べても、強い伝播力があることがわかります。致死率については、早期の対策が遅れたメキシコでは確認された7624人の患者のうち113人が死亡し1.5%(WHO発表・新型インフルエンザ患者数6月19日時点)と高い数値ですが、抗インフルエンザ薬のタミフルやリレンザが有効なことから、メキシコを除けば、季節性インフルエンザの0.05〜0.1%を少し上回る程度と予測しています。各国ともに、死亡者は、慢性疾患のある人が多く、合併症を引き起こして重篤な事態に至っています。厚生労働省は、アメリカの入院患者39例の分析から、妊婦や肥満、糖尿病、慢性肺疾患(喘息、慢性閉塞性肺疾患等)、免疫不全状態(T 細胞性免疫不全等)、慢性性心疾患(先天性心疾患、冠動脈疾患等)などの基礎疾患がある人は重症化しやすいので、要注意としています。 
現時点では、「強毒性」が懸念される鳥インフルエンザと違い、「弱毒性」の新型インフルエンザウイルスですが、ウイルスが伝播する間に変異していくのも大きな特徴の一つなので、今後どのように推移していくのか、注意深く監視を続けていくことが大切です。
新型インフルエンザとは?
厚生労働省では、新たに改定した運用指針の基本的な考え方として、4つの柱をあげています。
(1)重症患者数の増加に対応できる病床確保、重症患者救命を最優先とする医療提供体制の整備
(2)院内感染対策の徹底などによる基礎疾患を有する者等の感染防止対策の強化
(3)院内感染拡大及びウイルスの症状の変化を早期探知するため、着実なサーべイランスの実施
(4)感染の急速な拡大と大規模一斉流行の抑制・緩和のための公衆衛生対策の効果的な実施
具体的には、重症患者の病床の確保と救命を最優先とし、重症患者でない感染者の入院措置は取りやめ、自宅療養に方向転換しました。診察も一般医療機関で受診ができ、感染が疑われる人への遺伝子検査を取りやめ、全国500箇所の定点医療機関を受診した患者にのみに行うこととしています。迅速に患者数の推移を把握することで、集団感染の発生をいち早く察知し、感染の急速な拡大と大流行を抑制し、ウイルスの変異を監視することに重点を置いています。主な対応策を紹介しましょう。
<患者と濃厚接触者への対応>
・感染者は、原則として外出を自粛し、自宅療養する。
・基礎疾患のある人は、早期に抗インフルエンザ薬を投与し、必要があれば入院治療する。
・濃厚接触者には、外出自粛などの協力を要請。一定期間に症状がでた人には、保健所に連絡してもらう。
<医療体制>
・発熱外来だけでなく、原則として一般医療機関で診察する。このとき、医療機関は、発熱患者と他の患者の待ちあい区分を分ける(待機場所や医療時間を区分)。
・重症患者については、感染症指定病院以外でも入院を受け入れ、都道府県は重症患者のための病床を確保する。
・発熱センターは、適切な医療機関の紹介や自宅療養患者の相談対応などの情報を提供。
<学校・保育施設など>
・学校や保育施設などで患者が発生したときは、都道府県等は、必要に応じて臨時休業を要請。
・患者が発生していなくても、感染拡大防止のために必要とされる場合には、都道府県等は広域での臨時休業の要請が可能。
<サーベイランスの着実な実施>
・保健所は全患者の把握ではなく、感染拡大が予測される集団発生を可能な限り早期に把握し、大規模な流行の回避を図る。また、保健所は学校の休業状況などを迅速に把握する。
・地方衛生研究所が、感染状況に応じて検体の検査を実施する。都道府県等は、保健所、地方衛生研究所の結果を国に報告し、感染拡大防止対策を講じる。
・入院した重症患者の数を把握し、病原体定点医療機関の患者の検体から地方衛生研究所、および国立感染症研究所で、ウイルスの性状変化を監視する。
・定点医療機関からの保健所への報告にもとづき、国内のインフルエンザの発生動向を的確に把握し、医療関係者や国民に情報を提供する。
<検疫>
・全入国者に検疫ブース前で呼びかけ、健康カードを配布し、発症した場合には、医療機関に受診してもらう。
・事前通報の状況に応じて機内検疫を行う。が、検疫で判明した感染者には、原則、遺伝子検査は実施せず、マスクを着用のうえ、自宅療養してもらう。
・同一ツアーの集団から複数の感染者が認められた場合は、遺伝子検査を行い、陽性ならば医療機関受診を勧める。
こうした新指針について、地方自治体によっては体制作りが難しいとの声もあり、各自治体の事情に合わせて、若干、対応が異なる場合も想定されます。
厚生労働省では、今回改定した対策を、秋冬の大流行も見据えた中期的な指針とし、ウイルスの性状変異の状況にあわせて、再度、見直すこともあるとしています。また、予防に有効な新型インフルエンザワクチンの製造について、舛添要一厚労相は、7月中旬に季節性インフルエンザワクチンの製造を中断し、それ以降、新型インフルエンザワクチンを製造する方針を明らかにしました。これにより10月には、新型インフルエンザワクチンの接種が可能になる見通しです。
(2009.7.6)
【参考】
厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp
国立感染症研究所・感染症情報センター http://idsc.nih.go.jp/index-j.html
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