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冬の食中毒
ここ数年、冬の食中毒が増加傾向にあり、厚生労働省では予防を呼びかけています。高温多湿の梅雨時など夏場はサルモネラ菌や腸炎ビブリオ菌、腸管出血性大腸菌、ぶどう球菌などによる細菌性食中毒が主ですが、冬場の食中毒はノロウイルス、ロタウイルスなどによるウイルス性が多いのが特徴です。例年、12月〜2月にピークを迎えるノロウイルス感染症ですが、この冬は昨年秋から各地で発生し、厚生労働省は12月には全国45都道府県に対して「ノロウイルス警報」を発令しました。
【ノロウイルスの月別事件数、患者数の年次推移】
厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」より
(上段:事件数(件)、下段:患者数(人))
【月別事件数の年次推移】
厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」より
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
平成
12年
70 45 45 13 4 4 3 0 3 3 10 45
1,846 1,163 1,541 410 424 133 60 0 41 264 563 1,635
平成
13年
87 72 25 9 7 5 2 0 1 5 14 42
1,747 1,485 807 465 150 149 43 0 11 120 799 1,582
平成
14年
61 62 37 12 9 11 2 1 1 3 13 56
1,805 1,325 1,662 200 298 252 76 10 5 213 553 1,562
平成
15年
62 63 41 17 9 3 2 0 2 1 13 65
2,758 1,695 1,589 790 424 91 72 0 30 20 1,149 1,985
平成
16年
40 32 48 23 17 14 4 1 2 4 9 83
1,656 1,305 2,001 1,007 613 516 483 27 41 48 373 4,467
平成
17年
91 34 25 19 8 7 2 1 4 6 18 59
3,030 560 786 827 253 355 17 9 51 378 577 1,884
一方、乳幼児に多く発症するロタウイルスは1月〜4月にかけて増加します。ノロウイルスもロタウイルスも、食品からだけではなく、人から人、人から食器などのモノを経由して集団発生し、感染力が強いのが特徴です。こうしたことから国立感染症研究所では、冬期を過ぎても4月ごろまでは警戒が必要としています。これらの感染症は、嘔吐、下痢、腹痛のほか高熱を来たし、冬に流行するインフルエンザと症状が似るケースもあるので、どちらの病気かを速やかに見極めることが重要です。
2002年に承認された「ノロウイルス」とは
「ノロウイルス」は、2002年の国際ウイルス学会で承認された新しい名前です。それ以前は、1968年にアメリカのオハイオ州ノーウォークの小学校で集団発生した急性胃腸炎患者の大便から検出されたことから「ノーウォークウイルス」、あるいは電子顕微鏡で見た形態から「小型球形ウイルス」と呼ばれていました。
日本の厚生労働省でも「小型球形ウイルス中毒」として集計していましたが、ウイルス学会の承認を踏まえ、2003年に食品衛生法施行規則を改正して「ノロウイルス食中毒」として統一、集計するようになりました。2005年の食中毒発生状況の調査では、総発生数1,545件のうち274件(17.7%)、総患者数27,019名のうち8,727名(32.3%)がノロウイルスによる食中毒となっています。そして、病因物質別の患者数の多さでは、ノロウイルスが第1位でした。
ノロウイルスは人間の小腸で増殖するウイルスです。原因食品としてはカキ、アサリ、シジミなどの二枚貝があげられます。二枚貝の内臓、とくに中腸腺といわれる部分に蓄積し、ウイルスで汚染された貝類を食べると人間の小腸で増殖し、しまいには中毒症状を起こします。
ノロウイルス感染の症状と治療法
ノロウイルス感染症の主な症状は、吐き気や嘔吐、下痢、腹痛などです。血便は通常なく、発熱する人もいますが軽度です。子どもの場合は嘔吐、成人では下痢が多く、1日数回から10回以上の時もあります。嘔吐物に緑色の胆汁や腸内のものが混じることもあります。
病状はほぼ1〜2日で治癒し、後遺症はありません。しかし、免疫ができないので、一度かかっても、その後に2度、3度かかることがあります。
ノロウイルスの感染から発症までの潜伏期間は、平均1〜2日ですが、数時間から数日間と幅があります。また、ウイルス感染しても発症しない人もあり、軽い胃腸炎の症状ですんでしまう人もいます。
今のところ、ノロウイルスに対する効果的な抗ウイルス薬はなく、治療としては対症療法が主です。脱水症状がひどいときは、輸液が必要になることもあります。体力の劣る乳幼児や高齢者は、脱水症状を起こさないように水分や栄養の補給が大切です。また、誤って嘔吐物を気道に詰まらせると窒息となり、命にかかわりますので、特に高齢者の方は十分注意しましょう。厚生労働省によると、下痢症状に対して下痢止めなどの薬の服用は、病気の回復を遅らせる可能性があるので、服用しないほうが望ましいとされています。
ロタウイルス感染の症状と治療法
ロタウイルスの「ロタ」はラテン語で「車輪」のことで、電子顕微鏡でみると車輪のような形に見えることから名づけられました。ノロウイルスは直径が30〜38nm(ナノメーター)と小型なのに対して、ロタウイルスは直径約70nmと中型です。感染者の便からは、1gに10〜100億個ものウイルスが排出され、10個以下という微量のウイルスで感染し、強い感染力をもっています。
汚染された水や食物を口にしたり、汚染されたドアノブや手すりなどを触った手から口に入り、感染します(経口感染)。主に1〜2歳児を中心に、生後6か月から5歳ぐらいの乳幼児が発病します。ロタウイルス感染症の症状は、米のとぎ汁のような白色の下痢便が特徴で、そのため「白痢」あるいは「仮性小児コレラ」ともいわれていました。主な症状は嘔吐や下痢ですが、発熱を伴うことからノロウイルスよりも重症度が高いとされています。
潜伏期間は1〜3日で、発熱は1日ほどで治まります。1日数回の嘔吐症状も1〜2日でよくなりますが、激しい下痢は1週間ほど続きます。
ロタウイルスも、効果のある抗ウイルス薬はありません。そのため、ロタウイルス感染症の治療もノロウイルスと同じで、脱水症状を防ぐために水分と電解質(ナトリウムやカリウム)を補給します。具体的には、イオン水や湯冷まし、温めたミルクなどを50〜100ccに分けて飲ませます。しかし、嘔吐や下痢がひどく、口からの投与で十分に水分・電解質の補給ができないときは、点滴治療など医療機関での適切な治療が必要です。ロタウイルスも、ノロウイルス同様に下痢止めの薬は病状の回復を遅らせるといわれており、下痢止めの投与は避けることとされております。また、ロタウイルスも免疫はできないようであり、再感染することもありますので、一度、感染したからといって安心はできません。
ウイルス感染症の防止対策
〜「接触感染」「飛沫感染」による2次感染に要注意〜
食中毒というと、食べ物を食べたり飲んだりして発病すると思いがちですが、ノロウイルス、ロタウイルスともに、食中毒の患者さんの便や嘔吐物への「接触感染」や、それらが飛沫化し「飛沫感染」による2次感染も起こします。
「接触感染」は、ウイルスに汚染された衣服や物品などに触れた手指についたウイルスが、口から体内に入るケースです。また、患者の嘔吐物や下痢便が床などに飛び散り、その飛沫を吸い込むのが「飛沫感染」です。嘔吐物や下痢便を十分に掃除したつもりでも、ウイルスをふくむ乾燥した飛沫が、口から体内に入り感染することもあります。特にノロウイルスは、感染しても発病しない人もいるので、体内に潜伏したウイルスを知らずに他の人に感染させてしまうことがあります。  
ノロウイルスは、少量のウイルスを摂取しても人間の小腸で増殖し、症状を起こします。さらに、失活化(ウイルスが死んだり弱ったりして、感染能力や病気を起こす能力を失わせること)の温度や時間についても、完全には解明されておらず、感染の予防は簡単ではありません。
厚生労働省は、この冬増え続けるノロウイルスの感染をこれ以上拡大しないために、(1)「加熱が必要な食品は中心部までしっかり加熱する」、(2)「食品取り扱い者や調理器具などからの二次感染を防止」の2項目を大きな柱として予防の徹底を指導しています。
ノロウイルス、ロタウイルスの基本防止策
(1)ノロウイルスの加熱処理
食品中のノロウイルスを死滅させるために十分な加熱温度、時間はわかっていません。しかし、同じようなウイルスの場合から推察して、食品の中心温度85度以上で1分以上の加熱を行えば、ノロウイルスの感染性は失われるとされています。

(2)ノロウイルスの加熱処理
ロタウイルスの防止策も、ノロウイルスとほぼ同じです。必ず、十分な手洗いをし、乳幼児が多くかかりますから、玩具、衣類、タオル、調理器具や食器類の煮沸消毒(85度以上で1分以上)を行うと安心です。

ノロウイルス感染症は、かつては「お腹の風邪」、「お腹のインフルエンザ」と誤解され、「インフルエンザ様疾患」ということで学級閉鎖になったケースもあります。ロタウイルスは発熱もあり、どちらの感染症もインフルエンザと見極めがつかないことがあります。「おかしいな」と思ったら、早めに医師の診断を受けましょう。
【参考:食中毒についての情報】
厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/index.html
国立感染症研究所 感染症情報センター
http://idsc.nih.go.jp/index-j.html
(2007.2.20)
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