時事通信出版局

つぶやく編集者

用字用語という呪縛

COLUMN vol.3

おいしいラーメン屋があります。麺にコシがあって、スープに深みがある。のりと煮卵。どんぶりの中の小宇宙。湯気。小さな凝縮した幸せ。
その店にはマニフェストが掲げてあって
「毎朝スープのできに万全を期しています。満足できなければ店を開けません」
と書いてあります。
店のテーブルにはノートがあります。お客さんが思い思いのことを書いています。味を評価するコメントが圧倒的に多い。店側もお客さんの書き込みに丁寧にコメントを書いています。そのノートに書きこみました。
「質問です。スープに満足できないことが理由で開店しなかったことは、過去1年間に何回あったでしょうか?」
次に行った時、ノートを見ると、店のコメントが書いてありました。
「それは秘密です」。

こんな突っ込みをしてしまうのは、ぼくが元記者だからかもしれません。「最も本質をとらえる答えを引き出す質問は何だろう?」と折に触れ考えてきた結果の職業病でしょうか。

記者の病には、ほかに「文章の細部にこだわる」というのがあります。文章でお金をもらっているのだから当たり前ですが、「理想を追究」か「理想を追求」か、とか「受け入れ体制」か「受け入れ態勢」か、というような用字用語へのこだわりです。

用字用語に特にうるさい部長がいました。ずる賢い部員がいて、部長に何かを決済してもらう時、申請文書にわざと用字用語の間違いを1つ入れておく。部長は間違いを声高に指摘する。そこで謝罪すると、決済の方はあっさりと通してくれる…という話がありました。この方法がうまくいったか、真偽のほどは知りません。

新聞記事では用字用語が規定されていて、これから外れると記事のクオリティーが問われますから神経質になるのは当然です。記事ならずとも、公にする文章はこれに縛られるのは仕方がないかもしれません。私的な文、小説や詩は自由であるべきでしょうが…。

どこでも、編集者の傍らには必ず「用字用語ブック」という本があり、使い込んで真っ黒になっています。小社でもこの本をこの間改訂したのを機に、ホームページに用字用語ミニ検定という欄を設けました。
お時間のある方は遊びのつもりでやってみてください。

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