2018.07.23

梶原しげるの日本語コラム『モノは言いよう』【最終回】耳に障る「話し始め」の言いよう

不誠実に聞こえた「正直」の連発

少し前のことですが、日大アメフット部「反則タックル問題」では事件そのもの以外に、監督・コーチの会見での「話しぶり」にも非難が集まりました。監督、コーチがそろって余りにも「語彙力不足」で「お粗末な日本語」だと言うのです。どんな会見だったのか?

たとえば二人は記者の質問にこんな風に答えています。

監督:「正直に言ってですね、私の所からは(自分が命じたと言われる反則タックルの場面)、正直見えてませんでした、はい、正直なところ・・・」

コーチ:「正直い〜後で聞いて、驚いたっていうのが、正直い〜ありました」
(注・二人の発言のイメージを再現したものです)

私の友人の中には監督・コーチが競い合うように口にする「正直」の回数を100まで数えたところで、うんざり。ネットが中継する会見をそれ以上見なかったと言っていました。
多くの人が「あの二人は本当のことを言っていない、不誠実だ」と感じたのは「話の内容」と言うより、愚鈍に繰り出される「正直」という言葉にあったようです。

自分では分からない相手をイライラさせる「口癖」

短い間隔で同じ言葉を繰り返されるとイライラするのは、何も私の友人に限ったことではありません。「言葉癖」「口癖」は時に大事な会話場面を台無しにする事があります。

たとえば、大事な就職面接でのこんなやり取りはどうでしょう。

面接官:「大学での専攻や活動、応募の理由を教えて下さい」

学生:「一応、教育心理学を専攻いたしました。あとー、テニスサークルだったりとか地域の子供キャンプのサポートだったりとか、リーダー的な形で関わったりしました。なので、教育の大切さを実感しています。なので応募しました」

この学生の「面接官の不興を買うおそれがある『口癖』」をいくつ発見できましたか?何と、5つもあります。

①「一応」⇒「十分ではないが念のため」という意味です。「遠慮がちで控えめな性格の優しい人だ」と思ってもらえるより「自信がなさそうだ」との印象を与えてしまいます。「一応」とか「とりあえず」という「あいまい表現」が「口癖」になっている人は要注意です。

②「あとー」⇒「カジュアルな接続詞」で思いつくまま、ダラダラ話す「癖」も公的な場面でうっかり口にしないようにしましょう。「また」「さらに」などを添えて「課外活動では」とつなげるのが大人の話し方ですね。

③「だったり」「たり」⇒考えがまとまらない時に多用してしまう人がいます。「愛だったり、絆だったり、思いだったりが、大事なんじゃないかと思います」。大人でもこういうとりとめの無い言い方をする人がいますがまねてはいけません。

④「的な形」⇒公的な場面では、避けるべき「あいまい表現」です。「として」と「きっぱりした言い方」を選択することで、賢さをアピールできます。

⑤「なので」⇒従来「明日は面接の当日なので、遅刻しないようにしましょう」と文の中に登場する形が多かったものが、近年は「明日は面接の当日です。なので、遅刻しないようにしましょう」という具合に「なので」を、いきなり文頭に出す言い方がしばしば聞こえてきます。「そろそろ月末なので、出張旅費の精算お願いします」のほうが「そろそろ月末です。なので、出張旅費の精算お願いします」より「しっくりくる」というのは比較的年齢の上の人達です。
すなわち面接官の中には「文頭、なので」に違和感という人がいる恐れがあります。

⑤「文頭、なので」については「近年の用法で、くずれた感じをともなう」と明鏡国語辞典第二版(大修館書店2010年)にも記されています。「理屈っぽい」「違和感あり」と言う人がいるので、そういう人の前では、少なくとも連発は避けた方が無難な表現です。いっそのこと「なので」をさけて「ですから…」「したがいまして…」というつなぎ言葉のほうが「優しさ」を表現出来そうですね。

口癖は「話し始め」に出ることが多い

以上、①〜⑤まで「面接のとき、気をつけたい表現」を挙げましたが、これらがひとたび「口癖」となった場合、これを避けるのは容易なことではありません。比較的「口癖」が出やすいのは話し始めです。すなわち、「なので」を含め「文頭」には要注意です。なぜ「文頭」に「言葉癖」「口癖」が出やすいのか?

話し始めには「エネルギー」が必要です。我々は、発言をスタートさせるとき、多少の勇気と勢いを欲するものです。「さあ、ここからは自分が話すぞ」という場面になると、思わず自らを鼓舞したくなる。そんなときに便利なのが、「勢いづけの言葉」としての「口癖」です。自分にとっては「便利」でも聞かされる方にとっては「またかよ?」とうんざりする可能性が高い言葉となってしまいます。

あなたの周りに、何かというと「変な話い〜」で始める人がいませんか?最初は「どんな話なんだろう?」と興味をそそられ、続きを楽しみにしてみますが、一向に「変な話」が出てこない、なんてことがあります。

学生:「変な話い〜、僕ってそろそろ就活じゃないですかあ。てことは変な話い〜、就活服とか必要になったりしてきたりするじゃないですかあ〜……」

変でも意外でもない、平凡な話が延々語られるのは聞く者には退屈以外の何物でもありません。

「ある意味、それってさあ」と「ある意味」で話し始める人もいませんか?「ある意味」って「どんな意味なんだろう?」と好奇心のアンテナを広げて聞いていても、その意味が聞けたためしがない、と嘆く人もいます。
友人に「ある意味、大学での勉強って大事だよね」と突然言われても、「はあ?」って感じることありませんか?これも単なる自分への「勢いづけ」という場合が殆どです。「ある意味」に「意味」を見つける方が難しいように思われます。

「正直い〜」を連発して「嘘つき」「不誠実」という悪い印象を与えた記者会見のご当人達も「意図的に発した」というより「単なる口癖」だったのでしょう。口癖、恐るべしですね。

梶原 しげる

1950年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一法学部卒業後、文化放送に入社。アナウンサーとして活躍し、1992年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。日本語検定審議委員。著書に『不適切な日本語』『口のきき方』『すべらない敬語』『即答するバカ』(いずれも新潮新書)など多数。