2018.12.25

スイスイ分かる! 「新学習指導要領」スーパーガイド 第12回(最終回)「小学校英語・外国語活動」

第12回テーマ「小学校英語・外国語活動」

大改訂となった新学習指導要領(2017年3月告示)。膨大な内容の中から、試験に出るポイントを12のテーマに分け、専門家が分かりやすく解説していきます。

外国語教育の早期化・教科化

 今回の改訂の中で最も注目されているものに、外国語教育における早期化と教科化があります。小学校3、4年生で年間35時間の外国語活動が、5、6年生は年間70時間の外国語が教科として導入されます。
 まず、そこに至る趣旨を整理しておきましょう。

外国語活動と外国語科の目標

 日本の英語教育について「テストはできても話せない」「いざとなると英語が出てこない」と言った悪評(?)を耳にしたことがあるかと思います。また、「中学校でのコミュニケーション重視の学びが、大学入試の影響で高等学校での学びに活かされていない」とも言われてきました。今回の改訂は小中高を貫くもので、外国語学習においては、特に以下の2点に着目して資質・能力を育成するよう述べられています。
・「外国語を使って何ができるようになるか」(下線部①参照)
・言語習得の特徴を踏まえて、「どのように学ぶか」(下線部②参照)

 次にあげた外国語活動、外国語の目標においては、「見方・考え方を働かせ(下線部)」と「言語活動を通して(下線部)」というところに注目してください。ざっくばらんに言うと、言語活動(聞いてみる、話してみる)が‘先’で、理解するのは十分に慣れ親しんだ‘後’ということになります。そして、使ってみる際に、「見方・考え方を働かせ」るよう、いかに言語活動を設定するかがポイントなります(後述)。
 なお、他教科と同様、育成を目指す資質・能力の三つの柱(「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」)に沿って、「目標」と「内容」が整理されており、この構成については中学校も同じです。これらは、「見方・考え方を働かせ」なければ、養うことは難しいのです。もう一つの注目点である「素地」と「基礎」(二重下線部)については、後掲の「領域別の目標」で述べます。

外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方とは?

 今回の改訂では、どの教科等においても「見方・考え方」が重要視されていますが、外国語においても、小中高を貫く共通事項として「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」が示されています。

 授業者は、児童がどのようにして「見方・考え方を働かせ」るのかを考えなければなりません。それは、日頃の児童の様子や教育実践に関連するさまざまな要因を熟知している教師だからこそできることです。どんな話題について、どのような表現を使うことによって、お互いにとって交わす価値や意味のある活動を体験してもらうかを考えます。そこには背景にある文化、他者への配慮の大切さなどへの気づきを促したいという、教師の思いが込められることになります。外国語学習がクラス作りにもプラスに作用すると言われるのは、このあたりからでしょう。
そして、そうした意味のある言語活動にいざなうのがSmall Talkです。教師やALTは、児童の日常生活や社会での出来事などを踏まえ、興味関心を喚起し、既習事項の復習や学ばせたい言語表現への導入となるように、英語で語りかけます。児童は「見方・考え方を働かせ」ながら、その英語に耳を傾けます。教師は、Small Talkによって、英語を使おうとする姿を示すことにもなります。 
 6年生の夏休み明けの授業について考えている教師の頭の中をのぞいてみましょう。

 そもそも「見方・考え方」というのは、コミュニケーションの場面や相手により、「知りたい」「伝えたい」という気持ちを表すときに、それまでに体験したことを基に働くものです。暗記したことを声に出す反復練習だけでは、いざというときに使えません。
 「知りたい」「伝えたい」という気持ちは、人間にとって、自然にそして無意識に生まれるものです。暗記したことではなく、自分にとって「本当のこと」「リアルなこと」を伝えてこそ充足感が得られます。義務感からではなく内から湧いてくるメッセージです。脳科学の分野においては、このように無意識のうちにアタマと心が機能する状態でこそ、良い学びが起こり、知識・技能の向上につながり、充足感も得られるとされています(Damasio、A. 2000)。
 「英語コミュニケーション活動でアタマと心をハッピーに!」という思いで取り組むとよいでしょう。外国語教育が広く人格形成につながると言われる所以はこのあたりにありそうですね。

領域別の目標

 今回の改訂では、5つの領域(聞くこと、読むこと、話すこと[やり取り]、話すこと[発表]、書くこと)ごとに目標が設定されていることも大きな特徴です。
 さらにここでも3つの柱に対応したア、イ、ウの目標を明記しています。紙幅の関係で「話すこと[やり取り]」の項を見てみましょう。

 下線を施した文末に注目してください。外国語活動での「〜ようにする」は、見方・考え方を働かせるように促して、アタマと心がハッピーな状態で外国語に慣れ親しむ経験を重ねることを目指しています。いわゆる「評価」はしませんが、振り返りの時間を確保し、児童の「表れ」を受け止めることが大切です。
 そして、活動が‘先’、理解は‘後’ という、言語習得の特徴に則した学び方が浸透し、知的好奇心の高まる高学年では、読むこと、書くことが加わり、より系統的な学びが展開します。ルーブリックなどによるパフォーマンス評価を取り入れ自らの学びを客観的に省察する力を養うことも大切です。
 最後に、教師自身が従来の学習観・指導観を見つめ直すこと、すなわち、見方・考え方を働かせて指導にあたることを心掛け、児童とともに「学び方」を探求する姿勢が求められることを申し添えておきます。

※ 引用文献 Damasio、A. (2000). The feeling of what happens. New York: Mariner Books.

著/永倉 由里(常葉大学教育学部 教授)