2018.07.23

スイスイ分かる! 「新学習指導要領」スーパーガイド 第7回「社会科」

第7回テーマ「社会科」

大改訂となった新学習指導要領(2017年3月告示)。膨大な内容の中から、試験に出るポイントを12のテーマに分け、専門家が分かりやすく解説していきます。

新しい教育目標の重点事項

新学習指導要領における「社会科」の教科目標の前文には、「社会的な見方・考え方を働かせる」「課題を追究したり解決したりする活動を通す」「グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を育成する」という3つの内容が明示されました。これらは新しい社会科の学習指導を進めるための重点事項です。

特に「社会的な見方・考え方を働かせる」ことは、社会科の究極的なねらいである「公民としての資質・能力の基礎を育成する」ための指導基盤として位置付けられました。

「社会的な見方・考え方」とは?

「社会的な見方・考え方」とは、新学習指導要領の「改善の基本方針」において、「課題を追究したり解決したりする活動において、社会的事象等の意味や意義、特色や相互の関連を考察したり、社会に見られる課題を把握して、その解決に向けて構想したりする際の視点や方法である」(※1)と明示されました。

そこで小学校社会科では、「社会的事象を、位置や空間的な広がり、時期や時間の経過、事象や人々の相互関係などに着目して捉え、比較・分類したり総合したり、地域の人々や国民の生活と関連付けたりすること」を「社会的事象の見方・考え方」と位置付けました(※2)。また、中学校社会科では各分野の特質に応じたそれぞれの「見方・考え方」として整理しました。

つまり、これからの社会科では、子供が空間、時間、相互関係などに着目して、社会的事象の意味や意義、特色や相互の関連について多角的に見たり考えたり、関わり方を選択・判断したりする授業が求められるのです(下図)。なお、「社会的な見方・考え方」とは校種の段階や分野・科目の特質を踏まえた総称(※3)であると規定されています。

「社会的な見方・考え方」の系統と授業づくり

「社会的な見方・考え方」が小学校から中学校へどのように繋がっていくのかを示したのが以下の図です。

中学校において各分野それぞれにおける「見方・考え方」を自在に働かせることができるようにするためには、小学校段階から「見方・考え方」をしっかりと鍛える指導が必要となります。

そこで教師は授業を構想する場合、まず社会的事象をどのような「問題」として位置付けるのか、そしてその問題の構造(関係性)や因果関係にどのように着目させ、いかに問題解決に向けての方策を把握・構想できるようにするかを検討する必要があります。また多様な視点から社会的事象に関わる個別知識(事実)を分類したり、比較したり、関係付けたりする方法を学習活動の中で身に付けさせる指導が重要となります。

「社会的な見方・考え方」を働かせた授業

「社会的な見方・考え方」を働かせた社会科の授業づくりの手がかりとなるのが、2016年12月の中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」(以下、答申)別添資料「学びの過程のイメージ」(下図)です。これは、社会科における課題(問題)解決的な学習過程をイメージしたもので、子供が問いを見出して解決したり、考察・構想したりして、自己の考えを形成することが目指されています。

特に「考察・構想」の段階において、視点(「位置や空間的な広がり」「時期や時間の経過」「事象や人々の相互関係」)を生かして考察・構想するという、「社会的な見方・考え方」を用いることの重要性が表明されています。そのために答申では「『問い』の例」(下の表)も提示して、考察や構想する一つの方策を示しています。

例えば、小学校第5学年「米作りの盛んな地域」の学習では、「国内で米の生産量が多い地域はどこか」を中心課題として設定し、まず米の生育条件と関連させながら自然条件との位置的・空間的な対応関係(地理的条件)を捉えさせます。
次に、米作りの盛んな地域の分布状況の変化や生産技術の進展、生産量の変化等、社会的事実を歴史的視点から捉えさせ、これからの米作りの在り方について考える場を設定します。その際、従事する人々との関係からも考究させます。

さらに深刻な現代の日本の稲作問題や新たな取り組みによってビジネスチャンスを広げている事例等について考察させます。子供が問題解決的なプロセスにおいて空間的・時間的な視点から社会的事象を分析し、その相互関係を捉えていくことができる授業をいかに構成できるかが教師の役割となります。
「なぜその地域では米(稲)がたくさん作られているのか」という素朴な問いから、多様かつ複眼的な視点で「日本の米作り」を考究させることによって、現実社会の課題を自分の生き方と絡め、将来の社会形成者としての自覚や意識を深めていく授業が求められています。

新たな知の創造へ

「見方・考え方」とはそもそも「物事を捉える視点や考え方」(※7)であり、「学習だけなく、よりよい社会や自らの人生を創り出していく上で自在に働かせられるようにする資質・能力」(※8)です。「社会的な見方・考え方」は「深い学び」を実現させ、新たな知を創り出すための「視点や方法」なのです。

引用文献

※1 文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編』、日本文教出版株式会社、2018年、p.6
※2 文部科学省、 同上書、p.6
※3 文部科学省、 同上書、p.6
※4 廣嶋憲一郎『授業が変わる!新学習指導要領ハンドブック 小学校編』「第2章第2節 社会」、株式会社時事通信出版局、2017、p.67
※5 中央教育審議会 「社会科・地理歴史科・公民科における学習過程のイメージ(別添3-6)」(『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)別添付資料(1/3)』所収)、p.16(2018年5月20日閲覧)
※6 中央教育審議会 同上書、p.13
※7 文部科学省 前掲書1)、p.4
※8 中央教育審議会『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)』(2016年12月)、p.33(2018年5月18日閲覧)

著/安藤 雅之(常葉大学教職大学院教授)

次号では「小・中学校道徳」を解説します。

※ 内容は変更になる可能性があるのでご了承ください。