スクールロイヤー神内聡の 教師のための法律相談
教師であり弁護士でもある神内聡先生が、教師の学校での悩みを法律に基づいて解説します。
●教員のSNS使用はNG?
友人から「教員でもSNS、やっていいの?」と聞かれました。公開を友人に限定したり、アカウントを仮名にするなどしていますが、まずいでしょうか。
2018.12.25
教師であり弁護士でもある神内聡先生が、教師の学校での悩みを法律に基づいて解説します。
●教員のSNS使用はNG?
友人から「教員でもSNS、やっていいの?」と聞かれました。公開を友人に限定したり、アカウントを仮名にするなどしていますが、まずいでしょうか。
本設問では、教員のSNSの使用が正面から問題になっていますが、そもそもSNSを使用する自由は法律上どのように理解すべきものでしょうか。
SNSを介して自分の意見を自由に表現するのであれば、SNSの使用は表現の自由の一環として理解することができます。また、SNSを仕事上で利用するのであれば、経済活動の自由の一環として理解することもできます。また、SNSの使用を純粋にプライベートな活動として行うのであれば、幸福追求権や自己決定権など、より包括的な人権規定に含まれると理解することもできるでしょう。
いずれにしても、SNSを使用する自由は、憲法上で保障される可能性が十分にある自由ですので、教員であることを理由にSNSの使用を制約するのであれば、憲法上の人権制約の問題が生じます。設問の友人が考えるように、「教員だからSNS使用は当然禁止」ということはないのです。
しかし、教員はその仕事の性質上、子供たちのプライベートな事項を多く扱う非常に機密性の高い業務に従事しています。そのため、個人情報保護の観点からも、教員が仕事上で取り扱う情報には特に高い注意力が必要とされます。また、公立学校教員には地方公務員としての守秘義務も課せられています(地方公務員法第34条第1項)。個人情報の保護や守秘義務の徹底を理由に、教員のSNS使用を全面禁止するようなルール設定も理解できる話であり、実際にそのような就業規則等を設けている学校もあります。
ただし、前述のように、SNS使用が憲法上保障された自由に含まれると理解するのであれば、それを制約する理由は、目的のために必要かつ合理的なものでなければなりません。たとえ個人情報の保護や守秘義務を徹底するという目的は重要だとしても、全面的にSNS使用を禁止することが「必要かつ合理的である」とまで言い切れるかは疑問の余地があります。
設問のように、一部の人間にのみ公開しているSNSや、本名を公開していないSNSであっても、全面的に禁止する必要性や合理性はあるでしょうか。前者の場合でも、公開している人間が絶対に信用できるとは限らないので、SNSに投稿した内容が流出する可能性は否定できません。後者の場合のように本名を公開していなくとも、SNSに投稿した内容から本人であると特定される可能性も否定できません。しかし、結局のところ、教員のSNS使用が問題になるかは、その投稿内容次第です。公開している人間の一部が投稿内容を流出させたとしても、また本人であると特定されたとしても、SNSに投稿した内容に個人情報や守秘義務に違反する事項が含まれていなければ問題ないのです。教員だからといって、仕事と全く関係のないプライベートな内容を投稿することを含めて全面的にSNS使用を禁止することは、必要かつ合理的な制約と言えないと判断することもあり得ます。
なお、裁判例には担任教師が学校行事等の連絡事項を、LINEでクラスの生徒たちへ伝えていた事案で、生徒らとのコミュニケーションを深めるための一つの手段として行っていたものであり、担任教諭として生徒らに対して負う指導監督義務を履行するための必要な行為である、と判断したものもあります(横浜地裁横須賀支部平成28年11月7日)。この裁判例はLINEで伝える内容によって行為の適法性を判断していると考えられ、教員がLINEを使用すること自体を違法であると判断していない点で、本設問の参考になるでしょう。
弁護士・高校教員。教育法を専門とする弁護士活動と東京都の私立学校で高校教師を兼業する「スクールロイヤー」活動を行っている。著作に『スクールロイヤー 学校現場の事例で学ぶ教育紛争実務Q&A170』(日本加除出版)など。また、NHKドラマ「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」の考証を担当。