日中は、先生は職員室にいない方がよい
「誰も寄り付かないんです。出退勤時と打ち合わせや会議のときだけ出入りし、普段は誰も席に座ることなく静まり返っています」と、A先生は勤務する学校の職員室をこう語ります。「職員室へ行くと厳しい先輩教師や気むずかしい管理職がいるから、用事を済ませたらさっさと教室に戻ります」とB先生。こう言うと、読者の皆さんは、職員室に暗いイメージを持つかも知れません。
しかし、私は、放課後以外の職員室は、こうあるべきと考えます。なぜなら、子どもが学校にいる間は、子どものそばにいることが何より重要で、子どものそばにいるからこそ見えることがたくさんあるからです。休み時間の度に職員室に通うのは、緊急事態が発生しているときだけ。休み時間の度に来る先生がいると、教頭先生が心配して「何かありましたか。子どもたちは大丈夫ですか」と声をかけるくらいが、健全なのです。
子どもが帰った後の職員室は交流の場
でも、子どもが帰った後の職員室は、共に学び、共に悩み、共に希望を持つことのできる場になるはずです。大事な交流の場となるのです。めまぐるしいほど忙しい日々、一人で教室へ行き、周りの教師と会話もせずにただ帰るだけでは、何ともさびしい。
少しだけ肩の力を抜いて、お茶を飲んで、ゆったりすることはとても大事なことです。短い時間でも同僚や先輩教師と話すことで、新しい発想や知恵が生まれることがあります。職員室での会話は、小さなことでも無駄になることはありません。
分からないことを質問すれば、誰かが答えてくれます。相談すれば一緒に考えてくれます。クラスで困っている子どもへの対応、学習のこと、先輩教師は、何でもぶつけてほしいのです。
残念ながら、若い教師たちの多くは問題があっても一人で解決しようとしてしまいます。その結果、問題が複雑になっていくことが何度もありました。誰にでも失敗やまちがいは起こります。だから、職員室は語りの場でありたいのです。
若きC先生の失敗が、職員室全員の教訓に
C先生は教師2年目で4年生の担任。2学期末、書初めの練習の時間のことです。終了時刻、S君が墨のついた筆を振ったため、Nさんの洋服をかなり汚してしまったのです。ですが、C先生は、NさんにもS君にも、そのときは何も言いませんでした。ところが、Nさんが家庭に帰ってから、Nさんのお母さんから学校に電話が入ります。C先生は電話の向こうから怒鳴られてしまいました。
5時半過ぎでそろそろ帰ろうかという時刻で、職員室には先生方が揃っていました。電話を終えたC先生に学年の先生や先輩先生が諭すように言います。「先生、あなたがそのときNさんに声をかけ、S君をきちんと指導しなかったことが問題です。それでも保護者からお叱りを受けることもあるかも知れませんが、家庭に行くか、電話で今日の事情を話しておけば違った結果になったはずです」と。
この後、C先生は校長とともに家庭に伺いましたが、C先生が何の対応もしなかったことに怒った母親は、会ってくれようとさえしません。ようやく出てきた母親は父親に電話をして、その電話を無言で校長に渡します。父親は電話の向こうから、校長を叱責します。最後は「担任を変えろ!」で電話は切れてしまいました。
C先生と校長が学校に戻ると、もう7時過ぎだというのに、大勢の教職員が残っています。そう、心配していたのです。時間も時間でしたが、校長は、保護者対応の基本について、職員に話しました。
話した後、「C先生どうですか?」と尋ねると「先生方、すみませんでした。忙しさにかまけて、こんなこと、問題ないだろうと思ったことが間違いでした。きっと、まだ尾を引くかもしれませんがこれから丁寧に対応していきます。そして、先生方に相談します」。
これ以後、C先生はクラスの様子を職員室で同僚や先輩教師に語るようになりました。失敗から学ぶことができたのです。
このことをきっかけに、他の教師にも、変化が起きました。まず、各担任がこれまで以上に子どもに寄り添うようになりました。そのことがまた職員室の話題になりました。小さな変化を見逃さない関わりが増えました。
職員室で顔を合わせて、相談しながら議論することが重要であることを、若い教師から実践的に学んだのです。
「学びの宝物」を探すのは、あなた自身
「1時間でまとめまで進みませんでした。先生のクラスはどうでしたか?」
「算数の授業で、M君はユニークな考えを出して授業を盛り上げてくれました」
「N君は、夜遅くまでゲームをしているのか、毎日遅刻です。今日も」
「授業中、席から立って歩き回ったり、教室から出て行ってしまったりしています。どうすればいいでしょうね」
上記は、その後の職員室で交わされた会話の一例です。
職員室は教員同士がお互いの悩みを相談し解決したりすることによって、学習指導や学級経営をさらに高め合うことができる場所になります。ある意味、ワイワイガヤガヤがいいのです。職員室をそんな温かい場所にしてこそ、子どもも教師も生き生き学び合うことができるのです。職員室は学びの宝庫ですが、宝物は待っていても見つかりません。自分から求めて探してこそ見つかるのです。それを探すのは皆さんです。
シリーズ「学級経営のキホンのキ」として1年間執筆させていただきました。将来教師を目指す皆さんに、考えてほしい、響いてほしいと願って書いてきましたが、まだ十分伝えきれなかったかもしれません。平成最後の年、ぜひ、教師の仲間入りを果たしてください。教師の命は授業です。ですが、この授業力を上げるには、温かい学級づくりが関係します。温かい学級は、温かい教師集団によって育ちます。そこに集う教師が職員室を本当の意味で温かい場所に変える時、子どもたちも確かに成長していくのだと信じています。温かさは、厳しさを持っていることも忘れてはなりません。
筆者は研究所で『若い教師のための授業改善ヒント集』(1〜5集)を執筆し、この3月で一応の区切りとしました。100項目にわたるヒントは教師を目指すみなさんの参考になるはずです。さらに、今年度からは、『若い教師のための学級づくりヒント集』としてお見せできると思います。