第10回テーマ「特別支援教育」
大改訂となった新学習指導要領(2017年3月告示)。膨大な内容の中から、試験に出るポイントを12のテーマに分け、専門家が分かりやすく解説していきます。
2018.11.01
大改訂となった新学習指導要領(2017年3月告示)。膨大な内容の中から、試験に出るポイントを12のテーマに分け、専門家が分かりやすく解説していきます。
特殊教育(障害児教育)から特別支援教育への転換から10年の歳月が過ぎ、関連法の改正や発達障害への社会的関心の高まりなど、特別支援教育を取り巻く状況は大きく変化しました。特別支援教育の推進および充実が今後ますます求められている中、新学習指導要領ではどのような改訂が行われたのでしょうか。これからの特別支援教育の在り方を見据えながら、小学校・中学校・高等学校新学習指導要領の特別支援教育に関する重要な変更点を整理してみます。
障害のある児童生徒など、特別な配慮を必要とする児童生徒に対しては、個に応じた指導を行うことが基本です。個に応じた指導内容や指導方法の工夫に関して、現行の学習指導要領(2008年・2009年告示)では、その解説「総則編」において、障害種に応じた配慮の例が示されています。例えば、ADHD(注意欠如・多動性障害)やASD(自閉症スペクトラム障害)の児童生徒に対して、話して伝えるだけでなく、メモや絵などを付加するといったものです。
一方、新学習指導要領では、障害の種類や程度に応じて指導内容や指導方法を工夫することの大切さを示すだけに留まらず、一人一人の困難さに応じた指導の工夫についても示していることが注目されます(解説「総則編」)。これは、障害のある児童生徒に伴う困難さは一人一人で異なり、障害の種類や程度に応じた紋切り型の「工夫」は必ずしも適切な指導にならないことが背景にあります。
新学習指導要領では、総則での規定を受けて、各教科においても「障害のある児童(生徒)などについては、学習活動を行う場合に生じる困難さに応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的、組織的に行うこと」と規定しています。そして、すべての教科等でその工夫の例示がなされています。例えば、小学校学習指導要領解説「国語編」には、以下のような例が挙げられています。
上記の例は、障害種としてはLD(学習障害)が典型上は当てはまります。しかしながら、同じLDがある場合でも、一人一人に異なる学習上の困難さが生じてきます。したがって、障害の種類や程度だけではなく、一人一人の困難さを考慮することが必要なのです。すなわち、児童生徒一人一人の「困難さ」(例:文章を目で追いながら音読することが困難)を把握し、それに対する「指導上の工夫の意図」(例:自分がどこを読むのかが分かるように)を理解し、個に応じたさまざまな「手立て」(例:教科書の文を指等で押さえながら読むよう促す)を検討して、指導に当たっいくことが求められています。
また、特別な配慮を必要とする児童生徒は障害のある者に限りません。新学習指導要領では、「総則」において、海外から帰国した児童生徒などの学校生活への適応や、日本語の習得に困難のある児童生徒に対する日本語指導に関する規定が充実化され、さらに不登校児童生徒への配慮が新たに規定されました。彼らへの配慮も特別支援教育の範疇に含まれます。障害のある児童生徒の場合と同様に、一人一人を理解し、適切な配慮を行うことが必要であり基本です。
特別な配慮を必要とする児童生徒への指導を計画的かつ組織的、そして継続的に行うために重要な役割を担っているのが個別の教育支援計画と個別の指導計画です。個別の教育支援計画ならびに個別の指導計画とは、以下のように説明されます。
現行の学習指導要領では、個別の教育支援計画および個別の指導計画の作成と活用は特別支援学校に在籍する児童生徒に対してのみ、義務づけられています。新学習指導要領からの変更点は、特別支援学級に在籍する児童生徒に加え、通級による指導を受ける児童生徒に対しても、その全員について両計画の作成と活用が義務づけられたとともに、通常の学級においても、障害のある児童生徒などの指導にあたり、その作成と活用に努めることが規定されたことです。
障害のある児童生徒への教育的支援は、長期的な視点に立ち、切れ目なく一貫して行われなければなりません。例えば、通常の学級に在籍する場合でも、それまでは適切な支援が受けられていた発達障害のある児童生徒において、進学する際に配慮事項などが進学先へ引き継がれず支援が断たれ、その結果として不適応が生じるということが問題となりえます。個別の教育支援計画は、児童生徒一人一人の一生涯を見通しながらその学齢期において、教育機関が医療や福祉などの関連機関や保護者との連携のもとでどのような役割を果たすのかを明確にしてくれるものです。そして、個別の指導計画は、個別の教育支援計画に基づいて、一人一人の児童生徒に合った各教科等における指導目標、内容および方法を具体化し、効果的な指導を明らかにする役割を担っています。
両計画は、近年のトピックである「合理的配慮」や「個別カルテ(仮称)」との関連においても注目されます。以上の新学習指導要領における変更についても、児童生徒一人一人に寄り添いきめ細かな対応にあたることが、すべての教員に求められていると言えるでしょう。
ここまで、特別な配慮を必要とする児童生徒への指導を充実させるための新学習指導要領における変更点を見てきました。他の変更点として、特別支援学級および通級による指導の教育課程に関して、その基本的な考え方が示されるようになったことが挙げられます。
通級による指導を受ける児童生徒への指導にあたり、当該児童生徒に関わる教員間での連携が重要であることは言うまでもありません。したがって、小学校および中学校の教員にあっては、通級による指導における特別の教育課程についての共通理解が求められます。それでは、特別支援学級についてはどうでしょうか。これからの特別支援教育においては、特別支援学級と通常の学級の間での柔軟な転級を含む、連続性のある「多様な学びの場」を提供することが必要とされています。そのため、特別支援学級における特別の教育課程を理解しておくことは、通常の学級を担当する教員にあっても不可欠です。
他方、高等学校においても、2018(平成30)年度から通級による指導が制度化され、それに伴い、新学習指導要領で関連事柄が規定されるに至っています。小学校・中学校の教員と同様に、高等学校においてもすべての教員が障害のある生徒に関する共通理解を持ち、教員間で連携を図ることが重要です。
以上に整理してきたように、新学習指導要領では、特別な配慮を必要とする児童生徒に対する個に応じた指導をますます充実させることが期待されています。そして、すべての教員が共通の理解を持ち、共に彼らを支えていくことが望まれています。これからの特別支援教育が目指すところは、すべての児童生徒が「特別」であり、教員間の垣根をも超え、より良い学びを提供するという特別支援教育の基本を一層確かなものにすることであると思います。
次号では「小・中学校 体育科・保健体育科」を解説します。
※ ※内容は変更になる可能性があるのでご了承ください。