2018.11.22

教師のための法律相談 〜茶髪禁止の校則、拘束力はある?

スクールロイヤー神内聡の 教師のための法律相談

教師であり弁護士でもある神内聡先生が、教師の学校での悩みを法律に基づいて解説します。

茶髪禁止の校則、拘束力はある?

髪を染めてきた生徒に指導をしたところ、保護者から「茶髪禁止の法律があるわけじゃないし、保護者が許可しているんだから問題ないだろう」と言われました。校則では茶髪禁止です。従ってもらうことはできないのでしょうか。

1. なぜ、校則を定めることができるのか

 学校が校則を制定できる法的根拠は法律上明らかではありません。しかし、最高裁には大学がその目的を達成するために学則を制定する自律的・包括的権能を有すると判示するものがあり(最高裁判所昭和52年3月15日)、学校が一般市民社会と異なる部分社会であることを根拠に、校則を制定できる、とする考え方もあります。一方で、校則は児童生徒の人権を制約する側面を有するため、子供の人権の観点からは学校の校則制定権を否定する考え方や、制定できるとしても教育目的達成のために必要最小限度にとどめるべきであるという考え方もあります。
 学校は集団生活を営む場ですので、他者との関係を規律する上で一定のルールは必要です。学校は児童生徒に対する安全配慮義務を負うことから、学校の秩序を維持し、児童生徒の安全を確保するためにルールを設ける必要もあります。また、公立学校は社会の要望や地域の実情などに応じて、私立学校は建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針に基づいて、それぞれ教育目的を達成すべき責務を負っているため、教育目的を達成するために必要な限度で校則を制定することは法的に許容されると考えられます。さらに、教員は法律で懲戒権を認められていることから(学校教育法第11条)、懲戒を行使するに当たっての何らかの基準も必要になります。校則は懲戒の基準として機能することから、懲戒権の存在を根拠に、学校は校則を制定できるとも考えられるでしょう。

2. 校則には合理性が必要。ただし、その判断は難しい

 学校が校則を制定できるとしても、その内容は教育目的達成のために合理的なものでなければなりません。校則の合理性を判断するのは、教育的な要素だけでなく、個人の価値観や社会事情、時代背景などにも左右されるため、非常に難しいものです。また、校則は法律とも異なります。そのため、法律ではない校則にどこまで拘束力を認めるべきかという問題もあります。設問のように、校則では禁止されている茶髪も、法律では何ら禁止されておらず、ましてや髪型の自由は個人の自己決定権の一内容として憲法で保障されているとも考えられるため、保護者の主張にもうなずけるものがあります。
 しかし、そもそも暴力や窃盗など法律で禁止されていることは、校則で禁止するまでもなく児童生徒はやってはいけません。茶髪のように法律で禁止されていないことをあえて校則で禁止するのは、相応の教育目的を達成する必要性があるからと言えます。茶髪が与える印象は個人の価値観や社会事情などに照らしても千差万別ですが、例えば日本の就職活動において、茶髪で面接に挑む学生が多くはない実情、茶髪の営業員が顧客に不快な印象を与えることを憂慮する会社も少なくない実情等を踏まえれば、少なくとも日本社会において茶髪は組織や集団が求める秩序に反する象徴的な行為の一つとして受け取られる可能性を否定できません。学校教育が組織や集団における個人のあり方を学ぶ場でもあることを考えると、茶髪禁止により学校の秩序を維持することは一定の合理的関連性が認められると考えられます。

 したがって、設問のような場合、教員は保護者に対して、茶髪禁止の校則は必要性も合理性もあることから、従わない場合は懲戒の対象になることを理解してもらうことになります(ただし、生まれつきの髪色が黒でないのにそれを認めず、黒染めを強制するような指導はあってはなりません)。もっとも、公立中学校の場合、停学も退学もできないため懲戒は極めて限定され、現行の法制度の下では教員の指導の教育的効果も限定されたものにならざるを得ないでしょう。

著・監修/神内 聡

弁護士・高校教員。教育法を専門とする弁護士活動と東京都の私立学校で高校教師を兼業する「スクールロイヤー」活動を行っている。著作に『スクールロイヤー 学校現場の事例で学ぶ教育紛争実務Q&A170』(日本加除出版)など。また、NHKドラマ「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」の考証を担当。