スクールロイヤー神内聡の 教師のための法律相談
教師であり弁護士でもある神内聡先生が、教師の学校での悩みを法律に基づいて解説します。
2019.04.25
教師であり弁護士でもある神内聡先生が、教師の学校での悩みを法律に基づいて解説します。
子供の作文を学級通信で紹介したところ、保護者から苦情がありました。子供の作文等を学級通信に載せるには、匿名にしたとしても、保護者の許可がいるのでしょうか。
学級通信では設問のように,教師が特定の児童生徒の作文などを名前を伏せて掲載することがあります。では,掲載されたものが作文の一部であり,かつ名前が伏せられていても,設問の保護者が主張するように個人情報として扱うべきでしょうか。
個人情報保護法では,個人情報は「当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ,それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」(個人情報保護法第2条第一号など)と定義されています。個人情報に該当するか否かは状況によって相対的に判断されます。そのため,掲載されたものが作文の一部であり,さらに名前が伏せられていたとしても,同じクラスの児童生徒や保護者には,誰の作文であるかが識別できる場合,個人情報に該当する可能性があります。
作文が個人情報に該当するならば,原則として本人及び保護者の同意を得なければ学級通信に掲載することはできません。しかし,誰が書いた作文か識別できるかどうかは作文の内容に左右されるため,教員の判断だけでは難しい場合もあります。
また,作文には児童生徒のプライベートな情報が記載されている場合があります。仮に,そこに児童生徒にとって他人(担任教員以外)に知られたくない情報が含まれていた場合,プライバシーの侵害に該当する可能性もあります。したがって,作文の一部でも学級通信に掲載するには,たとえ名前を伏せるとしても,個人情報やプライバシーの侵害に該当しないかどうかを慎重に判断する必要があるのです。
作文を学級通信に掲載することは,著作権の関係からも問題があります。作文も著作物である以上,児童生徒には著作者として公表するかしないかを自由に判断できる権利があります(著作者人格権としての公表権・著作権法第18 条)。そのため,著作者である児童生徒の同意なく作文を掲載することは,著作権法に違反する可能性があります。なお,著作権法第35 条第1項により,教員は授業の過程において著作物を著作権者の許諾なく複製することができますが,これは「公表された著作物」が対象なので,公表されていない児童生徒の作文は対象外であることに注意しなければなりません。
では,個人情報保護及び著作権の観点から,事前に児童生徒及び保護者の同意を得ておくには,どのような方法があるでしょうか。実務上は,入学直後や学年の開始時期などに,作文などを学級通信で掲載することにつき反対である児童生徒や保護者に対しては,あらかじめ同意しない旨の書面を提出してもらうことが行われています。学校の教育活動で個別の案件ごとに個人情報や著作権に関する同意を得るのは非常な手間であることを考えると,包括的な同意ないし不同意を得ておくことで対処する方法も違法とは言えないでしょう。
しかし,たとえ保護者から包括的な同意を得ていたとしても,児童生徒本人が作文の掲載を希望しない場合にあえて掲載することは,子供の権利の観点から不適切と言えます。したがって,作文の場合は保護者から同意を得ていても児童生徒本人に掲載してもいいかどうかを確認する必要があります。一方,保護者から包括的な同意は得られていないが,児童生徒本人は掲載を希望する場合は,保護者と協議の上で掲載するとよいでしょう。
弁護士・高校教員。教育法を専門とする弁護士活動と東京都の私立学校で高校教師を兼業する「スクールロイヤー」活動を行っている。著作に『スクールロイヤー 学校現場の事例で学ぶ教育紛争実務Q&A170』(日本加除出版)など。また、NHKドラマ「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」の考証を担当。