2019.02.01

おすすめ書籍紹介「心機一転! 人生にワクワクしたいとき」

心機一転は栄養補助食品

 本書の主人公,水越千春は大学3年生である。就職活動,シューカツがいよいよ始まるのだ。これからの1年で一生の仕事を決めなければいけない。何とか希望する企業に潜りこまなければならないのだ。不安とあせりで胸の中はいっぱいだった。
 受験勉強とは違って,シューカツに正解はない。単純な学力だけでなく,コミュニケーション力とか人間力とか,自分では判断できない要素が無数にからんでくる。また,若者にとって最大にして最難関の人生の選択であり,何十社も試験を受け,何十回も落第する,ある意味異常な状
況が切ない。就職活動を通して,主人公が何度も挫折と奮起を繰り返し成長していく姿に思わずエールを送りたくなる物語である。
 教師しか考えていなかった私には「シューカツ」という言葉はあまりピンと来るものがないが,「教員採用試験の準備」ということに置き換えれば,大学現役時に落ちてからの1年のめまぐるしい心や状況の変化はとても大きいものだった。まず,現役生として二次試験に落ちたときは自分のすべてを否定された感覚に陥り,気持ちが戻るのに時間がかかった。私を教師への道に導いてくれたのは大学卒業後の1年間だった。工業大学での体育教師の補助と大学のトレーニングセンターの指導を任された。そこでの人間関係に驚かされたり,励まされたり,癒されたりした。地方から出て来て,1人暮らしをし,アルバイトをしながら勉学に励む生徒の姿に自分の甘さを痛感した。大学女性職員の健康管理に携わり,健康に対する意識や知識が高まった。また,
仕事後に大学図書館で採用試験の勉強に取り組めたのは最高だった。
 今の私は,あのときの「心機一転」がベースになっている。成功と失敗の人生の中で「心機一転」という栄養補助食品が必要不可欠であると強く思う。

『シューカツ!』

石田衣良=著/ 2011年/文春文庫/¥630+税

失敗したっていいよ

 いつもおしっこがもれちゃう男の子が本書の主人公のもれたろう。「いいじゃないか,ちょっぴりなんだから。ズボンをはいたらわからないんだから」と言って,おしっこが乾くまで冒険に出かける。そして,自分のように「もれたろう」で困っている人がいるんじゃないかと,みんなに声をかけていくのだ。
 「その感覚わかる!」というあるあるネタが出て来たり,もれたろうの意外な仲間も登場するなど,笑いが盛りだくさんの内容である。そして,もれたろうが仲間探しを通じていろいろなことを考える場面は,大人の心にも響くはずだ。単におしっこだけではない,気付きや切なさを感じる深い内容なのだ。絵本の中で,もれたろうの言葉や行動が大人の私達を元気づけ,失敗は悪いことではなく,気付きから新しい気持ちに発展させてくれる本書に思わず,ニンマリしてしまう。気持ちを切り替える大切さ満載だ!
 長く教師をやっていると,知らぬ間に失敗させないことを考えて,冒険させることを嫌ってしまう場面も少なくない。でも,生徒の冒険心や可能性は大人が思うよりはるかに大きい。生徒のワクワクした気持ちを試させるのも教師の大きな仕事だ。

『おしっこちょっぴりもれた ろう』

ヨシタケシンスケ=作・絵/2018年/PHP研究所/¥1,000+税

遠江 久美子

町田市立鶴川第二中学校主任教諭